コーチング心理(5):ビジネス心理式ダイアローグの意味

■ビジネス心理式ダイアローグの意味

ビジネス心理ではダイアローグを「問題意識を持つ」ための不可欠なプロセスと
みなしています。プロセスは結果だけではなく、途中の反対意見に応えてその段
階での疑問をひとつづつ解決していくことです。そこには疑問の生成消滅のよう
な弁証法の特徴が現れてきます。それが重要なのは、回答への一直線のような形
ではメンタルモデルが固定的なものになってしまうからです。固定的なメンタル
モデルとは、よくビジネス書などで語られる「フレーム」だといえます。フレー
ムを一般原理のごとく覚えて活用することには便利さが確かにあります。しかし、
これは実践に役に立つような応用力になってきません。そこに思考の固定化がお
きてしまうからです。
納得したり解釈を深めていくには、認知科学者の佐伯胖が述べるように「視点の
移動」が重要なのです。視点の移動は、異なる視点から少しづつそのコアな部分
を変形させながら変わらない部分をみるということです。変化の中にある普遍な
ものを知るというメタ認知の本質に関連する見方だともいえます。
こうした「視点の移動」の考え方は、これまでの心理や教育方面でもはあまり知
られていませんが、何かを比喩的なもの(メタファー)で喩えたり、シュミレー
ションしたり、数理モデルに表現したりすることは認識に不可欠なことです。

たとえば、三平方の定理は数理的な証明ではなく図解イメージで証明することも
できます。数理的な証明は数学の理論の中では確からしい事実として認識はでき
ます。ところが、それが私たちにはぴんと来ないようなことも一方で感じるので
はないでしょうか。確かに数字のルールでは正しいとしても、そこに真実味や納
得に必要なイメージの変形がないことに不満を感じるわけです。
それで図解イメージを使って、同じ”内容”を別の視点から証明するとよりその
数理的な意味がわかることになります。
それぞれを単体で理解している以上に、二つの視点から同じ対象についての理解
ができると私たちの認識になるほどという納得感(アハー効果)が生まれるから
です。

佐伯著『わかるということの意味』では次のように述べています。
「 これに対して、「問題として直接求められていること以外は何も求めてはい
けない」と思いこんでいる「わかっていない人」にとって、答えを出すことは
、「正しい求め方」に正しく従って出された「一種の儀式」になってしまってい
るのだというのである。
このことから著者は、「やってみてはじめてわかる」ことの重要さを強調する。
しかし、「とにかく経験」式の、
「はいまわる経験主義」が主張されているわけではない。大事なのは、世界に対
する「構え」である。「与えられた問題文の表面的問いを越えて、その世界では
自分なら何ができるか、どういうことがわかりうるかを探し求める気持ちで読み
取る.....世界を単に正確に写しとろうとするのでなく、世界に操作を加え、
はたらきかけ、変化させて、何か、既知のものから未知のものをさがし
求めてみようとする」(34頁)営みを、著者は「わかろうとする」ことと呼ぶの
である。 」
さらに次のように述べています。
「「『わかる』ということは、実は、『わかっていること同士が結びつく』とい
うことにほかならない」というのが著者の結論である。第 III 部で著者は、ス
ーパーのベテラン買い物客、ブラジルの観光地の路上でキャンディを売る子ども
たちが、経験を通して計算の「かしこいやり方」を身につけていることを紹介す
る。そのような、実践の中で構成されてきた「私が得意とする小さな世界」を人
はそれぞれさまざまに持っている。それらが何らかのきっかけで相互に結びつき、
「大きな世界」が構成されていくことこそが、「なっとくする」こと―認識世界
の広がり―だというのである。」

 

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